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問題解決に有効なのは、「一歩ずつ考えよう」?「考えるな、感じろ」?(2)

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前回の記事では、「ChatGPTを賢くする呪文」のニュースの基になった論文での報告についてご紹介しました。
この記事では、この論文の知見と心理学の理論の関連についてご説明していきます。

スモールステップ

この呪文の話を聞いた時に私が思い出したのが、「仕事に役立つ心理学」シリーズの「新しいことにチャレンジする時の六つのポイント」でご紹介した「スモールステップ(細かい段階設定)」です。
以前の記事では、「スモールステップ」について、以下のようにご紹介しました。
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最初から難しいことに挑戦しようとすると、気持ちがおっくうになったり、うまくいかないと考えてしまったりします。
また、難しい挑戦はほぼ間違いなく失敗し、心がくじけてしまいます。
そうならないために、細かい段階(スモールステップ)を作って、できることから始めていきましょう。

例えばダイエットにあたって、まずは「これまで毎日二つ食べていたケーキを一つにする」という小さな目標を設定し、できることから始めていき、それができたら「ケーキを半分にする」「ケーキを四分の一にする」というように、焦らず一歩ずつ進めていくというのが、スモールステップです。
ええっ、それで良いの?と思うかもしれませんが、大きな目標を立てて短期間でくじけて終わってしまうより、小さな目標を長く続けた方が、ダイエットは成功しますよね。
運動なら「毎日5分運動する」「ストレッチを始める」などから始め、徐々に運動の時間を長くしたり運動負荷を上げたりしていくのです。
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スモールステップは、何か問題を解決する際にごく現実的なアプローチであり、まさに“Let's think step by step”(一歩ずつ考えよう)と共通しています。
問題解決は一歩ずつしか行えません。
ごく当たり前のことですが、つい忘れてしまいます。
心理学の理論で言われている「スモールステップ」の有効性が人工知能であるChatGPTの課題正答率で確認されたことを、とても頼もしく思いました。

考えるな、感じろ?

さらに、論文では、"It’s a beautiful day. "(いい天気だね)"Abrakadabra!"(アブラカタブラ)"By the way, I found a good restaurant nearby"(ところで、近くにいいレストランを見つけたんだ)のような無関係の語句、"Don’t think. Just feel"(考えるな、感じろ)、"Let’s think step by step but reach an incorrect answer"(一歩ずつ考えよう。しかし不正解になる)のような、それらしくはあるけれど論理的な思考を妨害するような語句には、正答率を上げる効果はないことが報告されています。

天気の話やレストランの話は、気分転換にはよいかもしれませんから、けしてそれを否定はしません。
ただし、実際に問題に取り組む際には"Let's think step by step"(一歩ずつ考えよう)が効果的であることはとても納得できます。
"Let’s think step by step but reach an incorrect answer"「一歩ずつ考えよう。しかし不正解になる」というようなネガティブな予測が思論理的な考を邪魔することも、心理学的な知見と一致しています。
さらに、"Don’t think. Just feel"(考えるな、感じろ)は、一見よいことを言っているように見えますが、論理的な思考の放棄を助長しているような言葉であり、問題解決には一切効果をもたらさないということも、なるほどなあと思いました。

まとめ

「ChatGPTを賢くする呪文」のニュースの基になった論文での報告について、心理学の話と絡めながらご紹介しました。
実は、かなり以前のことですが、AIや深層学習は、人間を使った実験で確認できないことについてコンピューターを使ったシミュレーションで検証しようというところから始まったもので、心理学と非常に関連の深い分野です。
これからも、この分野に注目していこうと思います。

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